「はだしのゲン」の講談師 神田香織

「はだしのゲン」という漫画をご存じですか。40歳代以上の昭和世代は、図書館で読んだり、何らかの形でこの作品を知っている人が多いです。2012年に亡くなった、広島市生まれの漫画家、中沢啓治さんが、自らの被爆体験を題材に制作した長編漫画です。父と姉、弟を原爆で亡くしても、逆境にめげず、たくましく生きる少年、中岡元(げん)の成長を描いた作品です。

 

広島市教育委員会は、2013年度から市内の全小中学校、高校で学齢に応じて作成した教材「ひろしま平和ノート」を使い、「はだしのゲン」は、小学校3年生向けの教材に一部が引用、掲載されていました。ところが、2023年度から削除されたのです。その理由は、ゲンたちが浪曲のマネをしてお金を稼いだり、栄養不足を補おうと裕福な家の池でコイを釣る場面が引用されていたことで、「浪曲は現代の児童の生活実態に合わない」「コイ盗みは誤解を与える恐れがある」ということです。

 

そこで、漫画「はだしのゲン」を基にした講談を語ってきた講談師の神田香織さんが、広島への原爆投下から終戦までを題材にした「ふまれても麦のように生きろ!ゲン」を18年ぶりに、今年の夏に口演しました。「ひろしま平和ノート」からの削除に「私自身の生き方を否定されたよう」と訴えます。

 

先ほどまで、録画していたこの講談を観ていました。「はだしのゲン」は、漫画ですので、生々しい絵が訴えかけてきますが、神田さんの講談は、彼女の語りから来る内容を想像するものです。原爆が投下されたシーンなどは、まるで、昭和20年8月6日のあの場所にいるかのような感覚でした。

 

神田さんは、現在69歳ですので、原爆投下の時には、まだ生まれていません。しかし、現在もウクライナ、ガザと世界で戦火が絶えない現状に、「ゲンの姿を通し、戦争の惨禍をわが事として感じてもらいたい。今起きている戦争を止めるため、何ができるかを考える機会になれば」と願い、「今こそ、『はだしのゲン』を平和教育に生かすとき」と強調します。

 

神田さんの活動は、戦争を若い世代に伝える一つの手段ですが、あらためて「はだしのゲン」手に取ってみませんか。