「お尻には、呼吸できるという秘められた能力があることを信じてくださってありがとうございます」と英語で挨拶したのは、東京医科歯科大学の武部教授です。今年の「イグ・ノーベル賞」は、武部教授の研究チームが獲得しました。「多くの哺乳類が肛門を通じて呼吸する能力を持つことの発見」で生理学賞を受賞し、これで、日本の研究者の受賞は18年連続だそうです。
イグ・ノーベル賞は、ノーベル賞のパロディ版として1991年に始まりました。パロディと言っても、自虐的な表現であって、研究自体は、大いにまじめで、世の中の役に立つ内容ばかりです。でも、ユーモアいっぱいの研究で、過去の受賞例をいくつか挙げてみます。
「あるカップルが出会い、お互い魅力を感じたとき、心拍数が同期することを発見したこと」これは、相手が自分に魅力感じているかどうか、表情とか汗とかではなく、心拍数でわかるというのです。
「法的文書の理解を不必要に難しくしている原因の分析」では、具体的に法的文書と他の文書を比較して、わかりやすく分析しています。
「アヒルの子がどのようにして編隊を組んで泳ぐのかを理解しようとしたこと」では、並の抵抗を計算し、こうした水鳥たちが組む隊形が、エネルギー的に効率的な泳法であることを示した内容です。
「映画『スターウォーズ』をみたバッタは興奮するか」なんて、私たちの生活にとっては、どうでもいいような内容に思えますが、このユーモアが、私たちの心を満足させてくれるのですね。
さて、今回の武部教授チームの研究内容は、低酸素状態にしたブタやマウスの肛門に酸素を豊富に溶け込ませた化学溶液を注入すると、腸での呼吸で呼吸不全の症状が改善するとう内容です。この研究成果は、人間に活用されようとしています。呼吸が困難な低体重の赤ちゃんの低酸素状態を治療する方法として、実用化に向けて治験が進められているそうです。
武部教授の専門は「再生医学」です。ヒトのiPS細胞から肝臓の機能を持つ細胞のかたまりを作ることに初めて成功し、世界で注目を集めたのは26歳のときでした。現在37歳の教授は、これまでの取り組みについて、こう語ります。
「基本的に『人と違うことしか考えない』ことを意識しています。世界を変える発見というのは普通と違う着想から出てくると思うので、他の人からはふざけていると思われるようなことにも挑戦できる環境が大事だと思います」
もし、あなたのお子様が、「少し変?」と思っていたら、それこそ、可能性にあふれていると思ってください。これから世界を担う子どもたちは、人と違うことを考えることができる人です。私たち大人は、子どもたちに「マネするな!人と違うことを考えなさい!」と言い続けることですね。