「感覚過敏」をご存じですか。主に五感を中心に感覚が過剰に鋭く、日常生活に支障をきたしてしまう症状のことです。
「聴覚で言えば、教室でのざわざわとした話声やシャーペンをカチカチする音が苦手で、視覚なら人ごみの中にいるとすぐに疲れてしまったり、頭痛がしたり。味覚は大変で、食べられるものがほとんどありません。白米は食べられるのですが、においや食感によっては体調が悪くなる」と語るのは、「感覚過敏研究所」所長の加藤さんです。まだ18歳の若者です。加藤さんもその症状を持つ一人で、彼が経験した内容です。服の縫い目やタグが痛い。制服が重い。香水のにおいに耐えられない。といった、日常生活のあらゆる面で苦痛を感じ、中学校では不登校になりフリースクールに転校したそうです。
一般的にほとんど知られていない「感覚過敏」という言葉の可視化に取り組みます。「苦手な音があります」「苦手なニオイがあります」などのキャラクター缶バッジを作ります。そこに五感にかかわるメッセージを載せます。啓発活動は、コロナ禍において「マスクがつけられない意思表示カード」や「せんすマスク」がメディアに取り上げられ、認知度がアップします。
2022年には、アパレルブランドを立ち上げます。パーカーとTシャツ、靴下の開発をします。タグはなくし、縫い目は外側に出すなど、感覚過敏の人に、着心地のいい服を目指します。オンライン販売で、パーカーとTシャツ合わせて千着を売り上げたそうです。
視覚や聴覚に対応した、イヤホンやレンズも開発するものの、嗅覚や味覚、触覚について解決できる対策商品がまだできていないことが課題だそうです。加藤さんが、今力を入れているのが、センサリールームやカームダウンボックスと呼ばれる五感に配慮した空間づくりです。この空間は、音や光やにおいといった刺激をなくすことで落ち着きがもたらされるもので、将来的にはショッピングモールなどへの設置を目指しているそうです。
まだ18歳の加藤さんですが、彼の頭の中には、10年後の理想の未来があります。「今は感覚過敏がただ単につらい『症状』ですが、そのつらさを解消できれば、鋭い感覚によって小さな変化にも気づける『才能』になるんじゃないか。仕事をするときには少し過敏モードで、日常生活ではオフにするといったことができるようになったらいい。そのための研究を続け、私が32歳になるころまでに解決できればいいと目標を立てています」
時代の流れを見れば、目の悪い人のためにメガネというアイテムができ、それが、今では個性としてファッションにつながっています。感覚過敏も一つの個性として尊重する社会になっていくのかもしれません。加藤さんのような若者が、そんな社会への道を作り、私たちがその道をどう歩くかで、社会は変えられるのです。