「みなしごハッチ」の真実

保育園の屋上では、虫アミを持って「クマバチ」を追い求める子どもたち。動きがあまり速くないクマバチは、子どもでも簡単に捕まえられます。屋上に飛んでいるのは、オスですので、刺されることはありません。

 

私が子どもの頃に、「みなしごハッチ」というテレビアニメがありました。私も、その切ないストーリーに感情移入したものです。みつばち王国の王子・ハッチが主人公で、彼がまだ卵の頃、巣がスズメバチに襲われ、母と生き別れになってしまいます。少年のハッチが母を探し、旅をするというメルヘン仕立てのファンタジーです。

 

しかし、この物語は、生物学的なミツバチの生態としては、全くあり得ないことだそうです。

 

巣の中で越冬したミツバチたちは、春になると女王蜂は産卵を再開し、働きバチも活動を開始します。働きバチはすべてメスで、野原へ飛び立ち蜜を集めます。こうして、巣の中でハチの個体数が増えてくると、女王蜂の産んだ卵のうち1つが「王台」と呼ばれる特別な大型の巣穴に運ばれます。この卵から産まれた幼虫には、特別なえさが与えられます。ロイヤルゼリーです。これを食べた幼虫が次の女王蜂になります。働きバチになる卵と女王蜂になる卵は、遺伝子としては全く同一なのに、エサの違いで運命が変わるのです。

 

新しい女王蜂が誕生する前後、前の女王蜂は働きバチのうちの半数を連れて巣をあとにし、新しいすみかへと旅に出ます。これを「分蜂(ぶんぼう)」と言います。古い巣は、スズメバチなどの外敵の襲来にも耐えた安全な住まいなので、新たな女王にこれを譲るのです。

 

いったい、オスはいつ誕生るんだ!?と思いますね。分蜂の少し前、前女王はオスになる卵を少数産みます。そして、時期が来ると、新しい女王蜂はかえったオスと結婚旅行に飛び立ちます。しかし、女王は同じ巣のオスとは交尾しません。オスは、違う巣の女王と交尾するのです。これは、近親婚を避けていると考えてられています。

 

女王蜂は、その後も何度も複数のオスと交尾を繰り返し、体内に精子を溜め込みます。巣に戻った女王蜂はこの精子を小出しに使いながら、以降数年に渡って卵を産み続けるのです。

 

つまり、テレビアニメのように、オスのハチが母(女王)を訪ね歩くなんてことは現実には決して起こらないのです。オスのハッチの役割は、女王蜂の遺伝子をほかの女王蜂に手渡すこと。つまり、「遺伝子の使い走り」というわけです。その役割を終えればすぐに死が待っています。

 

ミツバチのオスの人生を「はかない」と思うか「あっぱれ」と思うか・・・あなたが決めてください。(笑)