世界で認められる素敵な日本語の一つに、「もったいない」がありますが、1981年にスタートした「北の国から」でも、五郎さんの生き方が、それを物語っています。赤いバターのシーンを覚えていますか。
螢 「(鍋の中を見て)何これ」
五郎「(笑う)牛乳」
螢 「牛乳?」
純 「だって赤いじゃん!」
五郎「ああ、食紅をまぜられたンだ」
純 「どうして?」
五郎「市場に出して売れないようにさ」
螢 「なあぜ?」
五郎「うンそれはーちょっと説明がむずかしいな」
螢 「どうするのこれ」
五郎「バターをつくるんだよ」
二人「バター!?」
五郎「そうだよ。赤いバターだ」
純 「変だよ! バターは黄色くなくちゃ」
五郎「そんなことないよ。赤くたってバターさ」
純 「変だよ」
螢 「どうやってバターをつくるの?」
五郎「これから教えるよ。中へおはいり」
また、五郎が東京で暮らしていた頃に起こした、自転車泥棒事件では・・・
五郎「(とつぜん)お巡りさん」
巡査「ハ?」
五郎「(興奮をけん命におさえる)オ、オレにはーアレスヨー、よく、わからんすよ」
巡査「何が?」
五郎「だってーこの、自転車は今はーこうやってきれいにしたけどー、見つけたときはーあすこのゴミの山に、雨ざらしになってもうサビついて」
令子「ちょっとあなた!」
五郎「あのゴミの山はその大沢さんの家のちょうどすぐ前にあるゴミの山だし、この自転車はそこにもうずっと一か月近くほうってあったわけで」
令子「ちょっとあなた待ってよ!」
五郎「(興奮)おれは毎日それを見ていたㇲよ!オレが見てるンだから大沢さんだって毎日それを見ていたはずだし、あすこは古いタタミとかテレビとか大きなゴミをためとく場所で、だから今さらあれは捨てたンじゃないあすこに置いてあったンだっていったって」
令子「(巡査に)すみません。(五郎に)ちょっと!もういいじゃない」
五郎「しかしー最近、東京では何でもー古くなると簡単に捨ててしまうから」
令子「(絶望)ねえ」
五郎「じゅうぶん使えるのに新しいものが出るとー、流行におくれると捨ててしまうから」
令子「やめて!!お願い!!本当にもうやめて!!」
実は、「北の国から」制作開始前のキャスティングで、黒板五郎役の候補は複数あったそうです。高倉健さん、藤竜也さんの名前も挙がったそうです。その中から、田中邦衛さんが選ばれたのはなぜか。「邦さんが一番情けなかったから」と倉本聰さんは語ります。
この「愛すべきダメ男」の真摯で正直な生き方は、私たちの心を揺さぶるのです。弱さもずるさも持つ普通の男に、私たちは共感するのです。