私、プロレスの味方です

この本のタイトルを見て、「なつかしい・・・」と思われた方は、猪木、馬場時代を中心としたプロレスオールドファンですね。

 

1982年に『時代屋の女房』で直木賞を受賞した、村松友視(むらまつともみ)さんが、1980年に初めて出した本です。これが、当時のプロレスファンを中心に支持をされ、ベストセラーになります。

 

一般的良識人が抱くプロレスへの認識は、上から目線からの軽視、差別視であり、プロレスファン自体も、プロレスの話題を何の気兼ねもなく語るのは、相手がプロレスファンとわかっての事でした。

 

古典芸能VS大衆芸能、懐石料理VS屋台店、銘菓VS駄菓子のように、ルールのあるスポーツVS八百長プロレスという図式が当てはめられます。そんなプロレスに「味方」して、世間的価値観に一矢報いることはできないものかと、村松さん自身も大のプロレスファンであることから、一気に、この本を書き上げたと言います。

 

勝敗と強弱、ルール対反則、悪役の華、殺気、間合い、凶器と武器、色気、気配、凄み、世間・・・などなど、村松さんの巧みな言葉を使ったプロレス論に、多くの人が魅了されました。当時、高校生だった私も、この本を読んで、「反則が5カウントまで認められるプロレスのルールは、まさにあってないようなものであるけど、ルール通りに、思い通りに行かない人生そのものじゃないか!」なんて、熱く語っていました。(笑)

 

私の知らない時代ですが、街頭テレビでのヒーロー力道山が、ヒーローらしからぬ死を遂げました。村松さんは、力道山の死後に残された、プロレス=ダーティという負の遺産の払拭に挑むかのごとき、アントニオ猪木を「過激なプロレス」と色づけ、対極にあるジャイアント馬場を王道プロレスと位置づけます。

 

「過激なプロレス」という言葉は、当時、テレビ朝日の局アナで、プロレスの実況を担当していた古舘伊知郎さんが、世間に広めたのです。あの古舘さんの原点は、「過激なプロレス実況」であることを知らない人も多くなっているでしょう。

 

村松さんは、本のタイトルは「私、プロレスの味方です」だけど、猪木さんを味方する内容だったので、馬場さんのファンからは反感を買ったようです。と語っていますが、この本を機に、日本人のプロレスの見かたが世界一深くなり、同時に、日本人プロレスラーの実力を含めた様々な評価が世界レベルになったのです。

 

さて、私の本棚の一番すみっこの奥にホコリをかぶった「私、プロレスの味方です」の文庫本を読み返すとします。(笑)