琵琶法師・・・琵琶を弾きながら、平家物語などを語る盲目の僧侶のことだが、今でも、あの時聴いた、盲目の老人の琵琶の音が忘れられない。
北原白秋のふるさと、福岡県は水郷柳川に、古い建物の10人程度しか宿泊できない、ルノワルユースホステルに泊まった。ルノワールをこよなく愛するオーナーがつけた名前である。
実は、宿のことも水郷柳川の船下りもほとんど覚えていない。
忘れられないのは、琵琶の音である。
宿の近くに、現代の琵琶法師がいるというのである。手土産に一升瓶を持参すれば、聴かせてくれるとのことだったので、宿で一緒になった仲間と琵琶法師のところへ行った。
老人は盲目。なんと奥さんもほとんど目が見えない。でも、慣れた手つきで、お茶を入れてくれた。驚くことに、結婚したときには、すでに二人とも目が見えていなかったというから、お互いの顔を知らないで何十年も共に生活しているのである。しかも、方言がきつく聞こえるので、二人の会話は、喧嘩をしているようだ。
おもむろに琵琶を取り出し、盲目の老人は弾きだした。
肥後琵琶というのだそうだ。
力強い。弱弱しい肉体からは考えられないくらい、強い力で引き込まれていく。
しばらく、肥後琵琶の響きが頭からはなれない。
忘れられない、音色であった。
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